「建設業の経理」№76
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はじめに現在,日本基準においては収益全体をカバーする包括的な基準は存在していない。これは以前より我が国における最大の会計課題の一つとなっていた。しかし,平成26年5月,国際会計基準審議会(IASB)が新収益認識基準IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表し,2018年1月以後開始する事業年度から,IFRS適用会社に対しこれを強制適用させることを決定したことを受けて,我が国の企業会計基準委員会は,平成28年2月,「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表した。これは,IFRS第15号を出発点として我が国における高品質な収益認識基準を開発するにあたり生じ得る問題について幅広く意見を募集するものである。本稿は,当該意見募集を受けて,IFRS第15号のうち,建設業に関連するトピックを紹介するものである。「経営財務」3258号の記事によると,我が国におけるIFRS適用会社は,適用予定の会社までを含めると2016年3月現在128社に及んでいるが,大多数は依然として日本基準を適用している。日本基準を適用する企業に対してIFRS第15号が直接的に適用されるわけではないが,上記意見募集がIFRS第15号を出発点としていることを踏まえると,将来日本基準として公表されるであろう収益認識に関する包括的な基準が,何らかのかたちでIFRS第15号と親和性の高い基準となることは概ね間違いないと思われる。この意味で,新基準公表による将来の影響を予想するうえで,IFRS第15号を知る意義は高いと考えられる。加えて,上記のとおり,現行の日本基準においては,例えば「工事契約に関する会計基準」といった個別項目に焦点をおいた収益認識基準は存在しているものの,包括的な収益認識基準は存在していない。このため,現行日本基準のもとで,実際に個別取引毎の収益認識方法を検討するにあたっては,単純に基準をあてはめるだけで解決することはまれであり,過去からの会計慣行やIFRS等を参考にせざるを得ないことが多い。したがって,将来の手当てという意味のみならず,現在の会計処理を確定するにあたっての有用な参照情報という意味でも,IFRS第15号を知る意義は大きいと考えられる。なお,本稿は,執筆者の私見であり,有限責任監査法人トーマツの公式見解ではない。会計ポイント解説!会計基準と実務⑬IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の概要―IFRS新収益認識基準が我が国の建設業会計に及ぼす影響を中心に―有限責任監査法人トーマツ公認会計士幅田卓52建設業の経理Autumn2016

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