建設業の経理 №74
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はじめに建設業を取り巻く経営環境は,受注競争の激化や人手不足による労働単価の高止まりなど依然として厳しい状況にあるが,一方で東日本大震災の復興需要の本格化や東京オリンピック・パラリンピックの建設需要,あるいは景気の回復基調に伴い建設投資額に若干の上昇傾向が見られる。しかし,こうした中でも少子高齢化の一層の進展や東京オリンピック・パラリンピック開催後の建設需要の落ち込みなど長期を見通した悲観論が取り沙汰されており,建設業に関わりが深い不動産業への進出など多角化経営の展開による生き残りが模索されている。マンションなどの民間住宅建築を主たる業務とする建設業者の場合,工事物件をデベロッパー(不動産業者)から受注するが,デベロッパーの利益率は建設業者の数%の利益率よりも概ね高く,10%以上と想定されている。そのため,建設業者の不動産業進出への動機が強く,マンションの場合,自社でマンション用地を仕入れ,自らマンションを建設し分譲・販売する,いわゆる自社事業への欲求が強い。また,受注産業を取り巻く経営環境は変動が激しく不安定であるために,安定的な収益物件として既存の不動産賃貸物件を所有したいとの動機も見受けられる。不動産業への進出のその他の契機として,不動産事業者をM&Aにより買収するケースやデベロッパーの経営不振に伴い債権保全を目的に自ら建設した建築物件をいわば不本意に取得するケースも想定される。筆者は経営環境の変化の中で今後も存続,発展していくためには,建設業においても管理会計システムと経営管理手法の充実が健全な建設業経営に必要であるとの考えから,これまで「経営計画・予算や工事原価管理などに関する管理会計システムの充実」と「施主に対する与信管理と債権保全策の制度化」について述べてきた(参考文献1,2)。また,建設業の収益基盤を安定させるためには,企業グループの再編が重要性を高めており,「建設業における経営戦略と企業グループ再編の課題―M&Aと経営再建,株式譲渡について―」では,M&Aや株式譲渡による企業グループ再編ついて考察した(参考文献3)。筆者はこれまで論述してきたように,建設業が今後も存続・発展していくためには,建設業本業の中で充実を図るべきで,これまで培ってきた経営資源や専門性を重視する立場であり,リスクヘッジの観点からも隣接事業への進出をはじめとした多角化経営については慎重であるべき立場である。しかしながら,長期的に不透明な経営環境の中で不動産業への進出について模索されているのも事実であるので,本稿では,1不動産賃貸物件の取得,2自社事業,3M&Aによる不動産事業者の買収,4債権保全を目的とした不動産物件の取得の4建設業における多角化経営の課題―不動産業への進出を中心として―南海辰村建設株式会社取締役常務執行役員経営支援本部長片岡健治82建設業の経理Spring2016

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