建設業の経理№82
5/10

大手ゼネコンにおける財務諸表分析―平成29年3月期有価証券報告書を参考に―駒澤大学経営学部教授 桑原正行1財務諸表分析の意義財務諸表分析については,大学学部でも科目設置されているところもあり,また,建設業経理士試験においても「1級財務分析」の科目がある。財務諸表分析に関する指標(経営指標)には様々なものがあるが,全てを数値で算出する必要はなく,必要な部分や基本的な指標をおさえることが重要で,その他については補完的に扱うので十分であるように思われる。筆者は,大学学部では「財務会計論」を担当しており,以前は専門職大学院(ビジネス・スクール)でも,社会人相手に「ビジネス・アカウンティング」を教えていた。ビジネス・スクールで社会人に企業分析のレポート課題を出すと,エクセルを使って可能な限りの分析数値を求めてくるが,数値を出すことそのものに力を使い果たしていたように思える。建設業経理士「1級財務分析」試験を受験する人達も,公式を覚えて数値を出すことが最終目的となっているのではないだろうか。当然のことであるが,分析指標を覚えるよりも使いながら,自社と同業他社を比較してそれぞれがどのような状態にあるのかを把握することの方が重要である。学部授業でも,税理士試験や公認会計士試験のベースとなる財務諸表作成の手続きが中心となった会計学の授業が多いように思われる。しかしながら,学生には将来の就職活動(業界研究)とも関連させながら,実際の財務諸表や有価証券報告書を見て,企業の経営成績や財政状態,ここ数年の状況等について理解することの方がはるかに重要である。したがって,本稿では,財務諸表分析における基本的な指標を使って,どのような手順で決算を見ていけばいいかという一例を示したい。対象として,平成29年3月期の大手ゼネコン4社(大林組・鹿島建設・清水建設・大成建設)の決算書の特徴について分析する。ただし,あらかじめ財務諸表分析の限界についても指摘しておく。自社の財務データであれば詳細な分析は可能であるが,他社のデータは通常有価証券報告書など企業外部者向けのSpring2018建設業の経理29

元のページ  ../index.html#5

このブックを見る