相続道の歩き方
12/18

死亡時に財産を移転するという点で遺贈も死因贈与も共通するのですが、先に見たように、わが国の遺言は高度に要式化されているため、作成のハードルがやや高いのです。自筆証書遺言や秘密証書遺言では、民法に定められた細かな方式を守らなければ容易に無効とされてしまうリスクがあり、かといって公正証書遺言をするにも費用と手続的な負担が少なからずあります。ところが、死因贈与であれば、当事者や給付の内容が特定でき、相手方と合意できていれば、それほどシビアに考えなくても相続開始による財産承継という目的を達することができるのです。もっとも、実務家としては、要式性を欠いたため無効となる遺言であっても、要件を満たしている場合には死因贈与として有効とされる場合がある(最判昭和32年5月21日・民集11巻5号732頁)ということは頭の片隅にでも置いておきましょう。「要件を欠く秘密証書遺言が自筆証書遺言として有効となる」、あるいは「父が非嫡出子を妻の嫡出子として届け出る行為に認知としての効力が認められる」といったケースと同様、いわゆる「無効行為の転換」とされる例です。法学部で学んだ記憶がよみがえるところですね。もう少し積極的な意味合いはないものでしょうか。ありました。死因贈与では、贈与の対象が不動産の場合、これに基づく仮登記を行うことで、あらかじめ権利移転の順位保全効を持たせることができるということです。実際、不動産の死因贈与契約が結ばれるケースでは、それに基づく始期付き所有権移転仮登記が打たれる場合が多いでしょう。では、本当に遺贈に比べて使い勝手は良いと言えるのでしょうか。少し気にかかるのは、死因贈与を書面で行った場合、「書面による贈与」(民550本文参照)として撤回ができなくなるのかという点です。遺贈は作るのは面倒ですが、新たに遺言を作成することでいつでも自由に撤回できるので(民1022)、死因贈与の撤回ができないとなると少し使いづらそうに思えてきます。この点に関し、判例は遺贈と性格が共通する点を理由に「死因贈与については、遺言の取消しに関する民法1022条がその方式に関する部44第1章相続開始前の道

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る