民事・税務上の「時効」解釈と実務
18/38

あったならば、Aの占有開始から10年の時効主張が可能です。つまり、事案によって、有利不利な主張が異なってくるということです。(3)Xの本件における適切な主張本件において、Xの占有開始から20年という主張は明渡請求をされた時期からすると難しいでしょう。したがって、Xとしての時効主張の選択肢としては、◯1Aの占有開始から10年、◯2Xの占有開始から10年、及び◯3Aの占有開始から20年という選択肢があります。◯1Aの占有開始から10年の主張この主張をするためには、Aの占有開始時点(1995年4月1日)にAが善意無過失である必要があります。乙土地は、Aの占有開始時点で、Yの所有物として登記されていたということですので、Aが乙土地を自己の所有であると信じたことについて無過失であったとは評価できない可能性が高いでしょう。したがって、この主張は本件では難しいでしょう。◯2Xの占有開始から10年の主張この主張をするためには、Xの占有開始時点(2008年4月1日)の売買の際に、Xが善意無過失であったことが必要になります。しかし、土地と建物の売買にあたり、乙土地所有者が登記簿上Yになっているということには、不動産売買という大きな取引であることからしても、確認すべきであったといえるでしょう。したがって、Xが無過失であったとの主張も厳しいものがあります。◯3Aの占有開始から20年の主張こちらは20年を時効期間とする主張ですので、Aが占有開始時点(1995年4月1日)に、善意無過失であった必要はありません。そして、占有開始時点からすると、20年の期間の経過は明らかですから、Xとしては、Aの占有を併せて、20年の時効取得の主張を選択すべきです。44第1章民事上の時効制度

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る