日本版司法取引と企業対応
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34 たとえば、ある企業がカルテル(独占禁止法違反)に関与していたとして、当局の立入りを受けた際、企業の取締役が従業員に指示してカルテルに関する社内資料を破棄・隠匿させた場合、当該証拠隠滅行為は、特定犯罪である独占禁止法違反の罪に関して行われた行為であることから、証拠隠滅罪も特定犯罪とされ司法取引の対象となる。そのため、この場合、証拠隠滅指示を受けた従業員は、仮に自身がカルテルの疑いで当局に摘発されたとすると、取締役が指示した証拠隠滅行為に関する証拠を検察官に提供することで、自らの独占禁止法違反の罪につき、不起訴処分や軽い求刑を得ることが可能となる。 日本版司法取引に際して、被疑者・被告人が検察官に提供する捜査・訴追協力の具体的な内容は、① 検察官、検察事務官または司法警察職員の取調べに際して当該他人の犯罪事実を明らかにするため真実の供述をすること② 当該他人の刑事事件の証人として尋問を受ける場合において真実の供述をすること③ 当該他人の犯罪事実を明らかにするため証拠物を提出することとされている(改正法350の2①一)。 また、①ないし③に付随する行為であり、合意の目的を達成するために必要な行為も被疑者・被告人による捜査・訴追協力に含まれる(改正法350の2③)。 前述した企業の取締役と従業員が共謀して公務員に対して贈賄したという事件を例にとると、たとえば、従業員が検察官の取調べに際して、取締役から公務員に対して贈賄するように指示を受けた状況や実際に公務員に対して贈賄した状況等について検察官や司法警察職員に対して供述するこ3被疑者・被告人による捜査・訴追協力

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