日本版司法取引と企業対応
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は じ め に 平成28年5月24日、第190回通常国会において「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立した。 同法律による改正点は多岐に及ぶが、中でも「日本版司法取引」とも呼ばれる制度については、法律成立前から、特に経済界を中心に注目を集めてきた。 最近、国際カルテル等で米国の司法当局により摘発され、米国流の司法取引の洗礼を否応なく受ける日本企業が相次いでいるため、日本版司法取引の導入によって、我が国の刑事司法が米国のそれと同様のものとなるのではないか、米国と同様に企業やその関係者に対する摘発が急増するのではないかといった懸念を持つ企業関係者も少なくなかった。 結論を先取りする形になるが、日本版司法取引は、確かに捜査機関の証拠収集能力を向上させる制度であり、その点で、企業としても十分な注意が必要である。 他方で、日本版司法取引は、我が国の刑事司法において、それまで一方的に捜査を受ける立場であった被疑者・被告人が、検察官と「交渉」する道を正式に切り開いた制度であり、企業においても主体的に対応することによって、不幸にして刑事事件で摘発された場合の損害を最小限に抑えることも可能となると考えられる。 日本版司法取引については、公布の日から2年を超えない範囲で政令で定める日から施行される予定であり、今後、法務省等において、制度の詳細や運用の在り方についての検討が行われ、その検討結果は政令や省令の形で明らかになるものと予想される。現段階では、法律が成立しただけで

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