2025年度日本地方自治研究学会学会賞

 

〈著書部門〉

 

1.受賞者 藤田 大輔 氏(豊岡市役所)

 

2.受賞作品 『地方公共団体における行政評価の変遷と問題点』 公人の友社、2024年。

 

3.受賞理由

本著作は、現在の日本の「地方公共団体の評価制度で十分に機能を発揮できていないものが多くあるが、その原因は何か」を「問い」(リサーチクエスチョン)とする。

この問いに対し、著者は歴史学的研究方法を用いて、古代から営まれてきた「評価的営為」について、評価主体の多元化、分権化、評価対象の多層化、高次化、評価方法の精緻化などの移行や変化を俯瞰的にたどり、現在の地方公共団体の評価制度を評価的営為の一つとして相対的に捉え、従来長きにわたり集権的で統制的であった評価的営為の時代とは異なり、現在は「自己改善的な評価的営為」という特殊な時代性の下にあると指摘する。

分析の結果、評価制度の一部に機能不全をもたらす「原因」として三つの仮説を導出、提示している(第8章)。第一の仮説は「多くの地方公共団体は、住民の価値判断を取り込んだ施策・政策の立案と改善を行うための評価制度を創設する」、第二の仮説は「地方公共団体の評価制度の創設および発展には、首長の価値判断が強く影響する」、第三の仮説は「評価制度の創設・運用と評価制度の内部(評価における結果を導く過程)において首長、行政職員、住民、それぞれの価値判断の対立(住民間を含む)が発生しやすくなっている」である。

次いでこれらの仮説について、みずから担当職員として評価制度の運用に携わってきた地方公共団体の単一事例による検証を行っている(第9章)。

本書の「結論」では「今後の研究課題」として、著者は、過去の評価的営為が権力者の支配を促進する機能を果たしていたのに対して、現在の評価制度が、首長の影響は大きいながらも、「首長や行政職員の一方的な支配を掣肘するツールという意味を持つ可能性」を指摘する。そして「今後の評価的営為は、首長、行政職員および住民自身に対して、当該地方公共団体における諸価値の状態を示し、自治の方向性を提示するという役割を負」い、「いわば自治の羅針盤としての機能を果たす可能性」を新たな論点として提示している。

本書の特長は、評価制度の機能不全の「原因を究明し、具体的な解決案や処方箋を提示する」以前に、「原因」そのものを独自の観点と研究方法により仮説として析出し、丁寧に言語化してその解像度を上げ、読者の認識や理解を深めることに注力した点に認められる。

本書は、現在の地方公共団体の評価制度について、「評価」の定義や「理念型」、また「評価的営為」の歴史的な系譜に照らしてその「現在地」を示し、評価制度が機能不全となる「原因」を、首長や行政職員、住民など多元化した評価主体の価値判断が交錯、対立しやすい状況に求め、評価制度の今後の発展のために各主体、とりわけ行政職員への役割期待を示唆している。

今後、評価制度がその機能を十分に発揮できるようにする上で、仮説とされた住民の価値判断の取り込みや首長の価値判断に影響を受けること、また各評価主体の価値判断が対立しやすい状況であることに対して、どのように対応するべきか。歴史的には「現在地」が「評価的営為の特殊な形態」であるとの認識に立つ著者には、地方公共団体の評価制度の一般化、普遍化をどのように展望し、移行の契機を何に求めるかについて、今後一層の考究を期待したい。

本書は、著者の博士論文に基づくが、書籍化するにあたり評価実務に当たる自治体職員を主な読者として想定し加筆修正を行ったことが明記されている。そのため、読者の実務上の悩みを慰撫したり意識啓発を企図する表現が随所に見られるが、本書の学術的価値を損なうまでのものではない。

会員が上梓した地方自治に関する著作として、先行研究にない著者独自の考えに基づき、学問及び地方自治の発展に貢献するものとして、学会賞に値すると評価するものである。

 

 

〈論文部門〉

 

 該当なし